昭和25年(1950)、「教祖神100年大祭」を機に二つの文化活動がなされた。
ひとつは、岡山市内の実業家を中心に宗忠神社奉賛会が結成され、この奉賛会の主催のもとに当時の日本画壇の第一線の方々の協力を得て展示即売会が開かれ、その浄財などが元となって昭和27年の「宗忠神社御神幸」復活につながった。戦後のすさんだ世の中に、伝統的な日本画のこの展示会は多くの県民市民の心をやわらげるものとなった。
また、奉賛会主催の茶道表千家元千宗左宗匠を迎えての献茶祭が斎行され、それより、表千家、裏千家、速水、籔之内、武者小路千家流の各家元が毎年来岡されての献茶祭が今日に続いている。
昭和25年の日本画展示即売会、後述の昭和40年の“重症児運動”におけるチャリティーセールなどが機縁となって、様々な分野の芸術家方との交流が五代、六代教主を中心に続けられていたが、昭和55年(1980)、「教祖神ご降誕200年大祝祭」を記念して、ニュージーランド・クライストチャーチ市のカンタベリー博物館に、人間国宝の作家方をはじめ50点が寄附された。これらは、当時の総理大臣大平正芳氏のニュージーランド訪問に際して届けられた。
翌昭和56年には、オーストラリア・シドニー市ニューサウスウェールズ州立美術館に同じく陶芸作品36点が、再び作家方のご芳志でもって寄せられた。その後も機会あるごとに追加され、平成16年(2004)8月現在、同美術館には51点が本教を通じて贈られている。
さらに、昭和63年(1988)、アメリカ・フロリダ州ポーク美術館にも、同じように作家方の寄贈により31点の陶芸作品がマイク・マンスフィールド駐日大使(当時)の協力を得て寄附された。
神道山へ教団本部大教殿が遷座なって2年目の昭和51年(1976)、明治32年(1899)建築の旧大教殿は改修されて、今日では珍しい木造の武道館として再スタートを切った。
これは柔道、空手道、剣道を通じて青少年の健全育成に寄与しようとするもので、献身的な奉仕をいとわない良き指導者を得て、日曜日を除く毎夕、子供たちの元気な声が絶えない道場となっている。
黒住教武道館として旧大教殿が再出発して間もない昭和52年(1977)、オーストラリア・シドニー市よりニューサウスウェールズ州ポリス・シチズン・ユースクラブ(警察と市民による青少年健全育成団体)の柔道部一行が初めての来日に際し、最初の試合を木造の道場で行いたいと申し出てきて、その年の年末、初の日豪少年少女柔道大会が開かれた。
実はこの頃、日本では女子の柔道試合はまだ正式には行われておらず、これがきっかけとなって、今も岡山における数少ない全国大会のひとつである都道府県対抗全日本女子柔道大会が、岡山武道館で開催されている。またこの日豪少年少女柔道大会は、2,3年毎に交流が重ねられて今日に至っている。
なお、平成16年、耐震補強改修工事なったこの武道館の壁面に、現代美術家高橋秀氏が献納した大作11点が常陳された。黒住教武道館は同時に「高橋秀アート常設館」でもあり、現代美術に囲まれた武道館となった。
平成2年(1990)、神道山に教祖の真筆の数々を陳列する宝物館が竣工した。ここには教主の家に伝わる美術品の数々の展示室、さらに本教教徒であり備前焼作家として人間国宝にも親子して認定された藤原啓、雄氏と藤原健氏の記念室、また戦後の京都で八木一夫氏らと前衛陶芸家集団「走泥社」を結成して世界的に活躍した鈴木治氏の記念室があって、それぞれ本教に献納された作品が常陳されている。さらに、現代美術家高橋秀氏や横尾忠則氏から献納された作品の数々もホールに陳列されている。
本教教学として古典音楽吉備楽と吉備舞がある。これは明治の初年、吉備の国岡山に伝わる古典楽と雅楽とがひとつになった形で生れたもので、明治11年(1878)には東京の当時の青山御所で明治皇后、皇太后陛下への御前演奏の栄に浴し、戦後も昭和42年(1967)、折からご来岡の昭和天皇皇后両陛下に御宿の後楽園で御前演奏の栄に輝いた。
昭和55年(1980)の、ニュージーランド・クライストチャーチへの日本現代陶芸作品贈呈式のときも、クライストチャーチ大聖堂で演奏し、平成6年(1994)、イタリア・ローマ国立近代美術家高橋秀在ローマ30年記念展の開会式でも、吉備楽が上演された。
平成10年(1998)、黒住教研究者でハーバード大学宗教学部教授ヘレン・ハーデカ女史が、ライシャワー日本文化研究所所長に就任したのを機に、招かれて同研究所のホールで吉備楽演奏会が開催され、満場の聴衆からスタンディングオベーション(総立ちしての拍手)の賞賛を受けた。
なお、大元の一角に吉備楽道場があり、ここで小野盛孝楽長を中心に日夜研さんと後継者育成につとめている。
教団本部のある神道山10万坪は赤松の美林で知られていたが、松くい虫のために次々と枯木が現れ、平成5年(1993)から岡山出身の宮脇昭横浜国大名誉教授の指導を得て緑化につとめている。平成16年現在、モチ、タブ、カシ、シイ等の照葉樹林をつくる樹木のポット苗を中心に30,000本余を植樹して育樹につとめている。
また神道山の生活排水は1日平均32トンになり、これを浄化してもリンとチッ素分は排除しきれないが、逆にこれが育樹に役立つことから、浄化した排水を山に戻す「神道山水サイクル」を実施している。このプラントも平成5年に完成した。
財団法人林原美術館副理事長、財団法人大本育英会理事長、くらしきコンサート後援「郷土の中高校生にクラシック音楽をプレゼントする会」会長、日本工芸会中国支部顧問、さらに川崎学園の監事をつとめ、毎春、川崎医科大学、川崎医療福祉大学の新入生に「医の心」また「奉仕の心」と題して講義をつとめている。
また教主は、昭和57年(1982)、招かれてアメリカ・プリンストン大学東アジア研究学部において黒住教について講演し、さらに昭和60年(1985)にはアメリカ・ライト大学とデイトン大学の宗教学部主催のシンポジウム「日本の神道・黒住教」で講演した。
(「黒住教のあらまし」より)
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